missing

 あとがき

[romance],[恋愛考],そして[missing]と,約二ヶ月に渡ってシリーズものを書き続けてきたワケだが,そもそもこんな長大なモンを書こう,書いときタイと思ったキッカケは,まあ,フラれたってコトだったりして. で,フラれる時の彼の人との会話中に,romanc…

17

2004年3月――.いよいよアメリカに発つ時が来た.この一年の間に,全てが変わった.一年前のあの日は,自分の人生なんて砂の上に石を積み上げようとしているだけなんじゃないかとさえ思った.積み上げては崩れ,積み上げては崩れる…その繰り返しに過ぎない気…

16

また,アメリカへ行くことにしたことには,思わぬおまけが付いてきた.大学時代の友人達とは,学部を卒業してから殆ど連絡が途絶えていたのだが,そのうち関西に残っている友人達が集まって送別会を開いてくれた.三年経って,みんな変わっていたりいなかっ…

15

アメリカ行きは,もう過去からの逃避ではなかった.研究者としてより良い刺激を受け,経験を積むことのできる希望の光に変わっていた.出国までに半年ほど時間はあったが,それを無駄にせず,できるだけ実験をして渡米の準備を整えておきたかった.渋滞を避…

14

そしていよいよ本番がやってきた.相変わらず心臓が飛び出そうなほど緊張して,手足も震えているのが分かる.だが,それもいつものことだ.原稿もスライドを変えるタイミングも,発表中の身振り手振りも,練習通りにやればいい.前の発表者が差し出したマイ…

13

九月になった.秋分の日を含む三連休には学会がある.もうデータも出揃ってきて,論文もとりあえず形になっていた.今度の学会発表を仕上げに,茨城の研究所から大学へ戻ることにした.発表用のスライドを作り,原稿を書き,練習を繰り返した. もう半年前に…

12

八月半ばの,週末のことだった.特大の台風が関東にやって来た.ワタクシは週末なのをいいことに夜更けまで本をを読んでいたのだが,ふと気が付くと雨も風も収まっていることに気が付いた.時刻は午前四時.日の出は五時半と六時の間くらいだろうと思われた…

11

そんなことを考えながら,荷物をまとめ,茨城に入った.失くした過去のことから自由になれたわけではなかったが,それでも実家にいるときよりは遙かにましだった.少なくとも,夜に眠ることが出来た. しばらくして,群馬県にある研究機関の施設も使わせても…

10

しかし,多くの人と信頼関係を築くなんてことが,可能なんだろうか.他人の尊敬を勝ち取る手段なら,ある程度心得ていた.努力を重ね,成果を上げていれば他人の評価を得ることは比較的容易い.また,弟から盗んだ社交性とトーク術で,常に存在感を発揮する…

9

翌朝,大学に来て早速茨城での指導してもらった研究員の方にメールを送った.返事はすぐに来た. 「やっぱりね.こちらでの研究をそちらでやるのは難しいだろうなと思ってました.こちらへ来るのはいつでもいいですよ」 ありがたかった.これで条件は全て揃…

8

涙を拭いた.電話口の彼女にはもう大丈夫だと言って,しばらく冗談交じりに話してから電話を切った.わざわざ決別を宣言する必要もなかったからだ. さて,ではこれからの自分の将来をどうしようか,と思いながらあたりを見回して,苦笑した.父や,死んだ友…

7

しかし電話の向こうから伝わってくる彼女の雰囲気は,相変わらず戸惑いを帯びていた. どうして―― あの時の彼女の言葉が本当ならば,彼女は同情してくれなければならなかった.二年前,「自分のことのように嬉しい」と言ってくれたように,今度は一緒に悲し…

6

四月になって母が家を出てMさんと生活を始めると,ワタクシは家に1人になった.弟が就職し,母は再婚し,そして自分はアメリカへと,それぞれが自分の道を歩んでいく筈だったのが,自分は道を見失って,取り残された感じがした. 大学へ出かけても,植物に…

5

17のときだった.何かにつけて父と比較されることを避けようとする自分が嫌になって,父を追いかけようと決心した.父が背負っていたものを,自分が引き受けようと思った.受験勉強はそこから始まった.一年浪人して,京大に合格した. 母は,言った.「お父…

4

母が戻って来て,伯母はもう一度同じ言葉を繰り返した.母は否定しなかった.最後に,祖母が弱々しい,蚊の鳴くような声で言った. 「みんな仲良うして欲しいわ…」 伯母達が帰った後,ワタクシは1人自分の部屋に篭った.電気もつけずに椅子の上にぼんやり座…

3

「あのな,健ちゃん…」 下の伯母が,ゆっくりと口を開く. 「去年の八月にな,一回お婆ちゃんが立ち上がれんようなってしもたことがあってんけどな…」 小さくなって,殆ど動かなくなってしまった祖母を見る.ここ何年かの間に祖母は急速に衰えた.ボケも始ま…

2

内藤家は典型的な没落士族だった.ワタクシの四代前,大祖父の名は内藤加賀守敬之助三十郎(かがのかみ けいのすけ さんじゅうろう)という.東京は新宿にある"新宿御苑"を知っている方は多いと思うが,彼の代まで内藤家はそこをまるまる領地に持ち,五千石の…

2003年3月.茨城の研究所での二年間を終え,ワタクシは地元に戻ってきた.あちらでの研究はまだ完了していなかったが,今度はアメリカ行きが控えている.それに向けての実験を大学で始めなければならなかった.茨城で携わった研究の続きは,たまにその研究所…