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九月になった.秋分の日を含む三連休には学会がある.もうデータも出揃ってきて,論文もとりあえず形になっていた.今度の学会発表を仕上げに,茨城の研究所から大学へ戻ることにした.発表用のスライドを作り,原稿を書き,練習を繰り返した.


もう半年前に実家で起こった出来事に悩まされることは無くなっていた.単純に学会が楽しみだった.茨城の研究所は実家から離れて生活できる代わりに,周りに自分と同じ年代の人間が殆どいないという問題があった.要するに,遊び仲間がいなかったのだ.学会に行けば,また出会いや再会がある.


学会は神戸だったので,学会前日に茨城を引き払い,滋賀の実家に帰った.庭は草原と化し,おまけに勝手口付近にスズメバチがバスケットボール大の巣を作っていて,参った.が,とりあえずそれらをやり過ごして荷物を置き,地元の文具店に行く.ワタクシは人前に立つだけで緊張して手が震えてしまうので,学会運営者側が用意してくれるレーザーポインタは全く使えない.なので発表用の指し棒を探しに行ったのだが,そこでは売っていなかった.諦めて再び実家に戻ってみると,ふとラジカセが目に入った.これだと思い,ドライバーを使ってアンテナを外した.少し細いが,十分使えそうだった.


そして学会当日.過去の学会で知り合った連中と挨拶を交わす.茨城にいる間,休日には北関東の名所旧跡を車で巡っていたのだが,その時に起こったり目撃したハプニングや,スズメバチの話で笑いを取り,自分の発表時間を教えて「絶対聞きに来いよ!」と宣伝して回った.昨年の北海道では一人の女性にカッコ付けたくて練習した発表だったが,今回は違う.仕事は仕事と割り切っている自分がいた.学会で出会う人間に,自分の仕事を理解して評価して貰えなければ学会参加は失敗だ.無論学会で出会った人間からプライベートな遊び仲間を得るのは悪いことじゃないが,もし研究で生きていくのなら,お互いに研究の話ができ,研究において協力できる人間関係を築くことは大切だと考えたのだ.


…続く