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アメリカ行きは,もう過去からの逃避ではなかった.研究者としてより良い刺激を受け,経験を積むことのできる希望の光に変わっていた.出国までに半年ほど時間はあったが,それを無駄にせず,できるだけ実験をして渡米の準備を整えておきたかった.渋滞を避けて通学時間を短縮するために,毎朝五時に家を出た.午前零時まで実験をして一時に帰宅,睡眠は三時間だったが辛くも何ともなかった.世のためでも人のためでもなく,家族のためでもなければ,他人に自慢するためでもない.ただ自分のためだけに研究をする.それが自分の拠って立つ所だと,強烈に実感した.


だが,土日には徹底的に遊ぶようにした.プライベートな人間関係も少しずつ広がっていったが,幼馴染のノリコは貴重な存在だった.幼馴染と言っても,小三の時に彼女の家族がアメリカへ引っ越して以来,ずっと途切れたままだった.それが13年の空白を経て,自動車運転免許の最終検定でばったりと再会したんである.だから実質の付き合いはここ二年ほどしかなく,お互いの傷や悩みなんかを相談しあう関係でもなかったが,遊びに対するノリはよく合ったのだ.


「明日ヒマ?」
「おー,何すんの?」
明石海峡大橋越えて讃岐うどん食いに行かへん?」
「おっけ.ほなナミちゃんも誘おうや」


そうやって「グルメ部」が始まった.車で日帰りできる所へならどこへでも出かけて,ご当地の美味い物を食う.車の中には「まっぷる」や「るるぶ」が次々と積み重なっていった.やがてノリコがid:yori_nonsanを引き入れ,そのよりこ氏がまたid:napolereaderを連れて来た.そして彼らを通じて,新しい人と出会った.とにかく,毎日が楽しかった.


…続く