3 墨子:墨家思想

今に至ってメジャーな東洋思想といえば儒教道教だが,春秋戦国〜秦までの諸子百家の時代,最も大きな勢力を持っていたのは,実は墨家集団だったらしい.が,秦の中国統一として忽然と消えてしまった.始皇帝焚書のお陰で詳細もよく分からないようである.が,彼らはテッテテキに奇怪かつ独創的,そして頑固窮まりナイ集団だった.


彼らは科学的・実用的で,ことごとく儒家に逆らった.儒家がその礼と楽(歌舞音曲)とを並べて尊重したのに対して,墨子は歌舞音曲などはいたずらに妄想や幻想をもたらすダケだと言って,コレを公然と軽視した(非楽).もっと実用に徹するべきで,葬礼なども簡便にすますベシと(節葬).
また人は天の志に従うべきだという哲学をもってて,そういう天の下にいる人は皆等しく兼ね合って博愛に徹するべきだと説いた.コレが兼愛.儒家が家族愛から出発してそれを国家愛にまで広げようとして唱えたのが「仁」.しかし,墨子はコレを「別愛(差別愛)」だと言って批判したのね.


日本にも「忌引」っつって,親族に不幸があった場合に何日か休んでも欠席や欠勤扱いにならない慣習があるけど,コレは儒教の影響.親が死ぬ.親に対する「孝」は人間のまごころ「仁」の中でも最も基本的な感情だから,メチャクチャ悲しいワケ.とても平常心ではいられないから,仕事や勉強なんか手につくハズがナイ.だから仕事や学校を休むことが許される.コレが忌引の根拠.また,喪に服すのが死んだ親に対する「礼」でもあるワケね.例えば親が死んだら忌引は五日,祖父母なら三日,ソレ以外の親族はイチニチとか.でも,恋人や親友が死んだときには? 忌引は適用されませんねえ.
コレは差別だと.儒家は人間関係を親から始まって同心円上に序列化する.親を中心に遠くなるにしたがって「仁」「礼」が薄く,軽くなってくことを秩序と考えた.
んだけど,血縁関係が無くても大事な人がいなくなったら悲しいもん.恋人と引き裂かれると考えるだけでツライもん.でも儒家は恋人がいなくなっても悲しくナイ.悲しんじゃイケナイ.恋人は大事じゃナイ.とまー,こう考えるワケ.
こういう発想は不自然だヨ,無理があるヨと墨家は責めたの.ソコで「兼愛」.誰であろうと差別せず同じように愛すベシってワケ.ハッキリ言って,世界史上最初の普遍的博愛主義.


で,全ての人を平等に愛するなら,親が死んで悲しいように他人が死んでも悲しくなくてはならナイ.戦争なんかで家族が死んで欲しくナイように,他人が戦争で死ぬのも黙って見ていられナイ.ソコで、墨子は「非攻」を唱えた.「非攻」とは絶対平和主義,どんな戦争にも反対するんである.

一般に人を殺すコトは,どんな時代のどんな政治家も思想家も容認してナイ.村や町で一人の人間を殺すせば,ただちに犯罪とみなされる.なのに戦争となると多数の殺害が平気で容認される.一人の殺害を国法や社会の法で裁いている一方で,多数の殺害を正当化する何かが動いている.戦争って何?いっさいの哲学と制度と愛を踏みにじるためにあるもの?
戦争を仕掛ける行為をこそ問うベシと.相手に攻撃をかけたい社会意識と国家主義こそ打倒すベシと.
墨子墨家はコレを敢然と主張した.一個の黒や少数の黒を見ているときは,それは黒だと言いながら,多数の黒を見るときはそれを白だと言うのはオカシイと.その詭弁の真っ只中に向かって,反旗を翻した.コレが墨家の「非攻」論.攻撃による戦争をすべて否定しようとした.

レダケなら単なる現実逃避の理想主義に聞こえるカモ知れナイ.が,トンデモナイのはココからである.彼らは戦争を止めるために全土を駆け回った.墨子の弟子達が形成した墨家集団というのがあったんだが,コレは技術者集団で様々な戦争技術を持っている.で,ドコかで小国が大国に攻められる,侵略戦争が起きると,攻められている国に駆けつけて防衛戦争を手伝うんだヨ.大国の側,侵略する側には絶対に立たナイ.スゴイデショ?そりゃ人気出るって.
墨家集団が組み立てる戦術はチョー緻密.敵の攻撃を数十のパターンに分け,そのヒトツヒトツに用意周到な反撃をもたらす計画を積み上げたワケ.またそれらの多様な作戦に対応できるだけの軍事訓練と軍事機器の開発をバリバリ進めたのネ.
たとえば敵が城の外に土塁などを積み上げてそこから矢を射たりするすると,場内に土塁をさらに高く積み上げて,矢を同時に何本も連射する「連弩」(れんど)を発明して対抗した.梯子を使って城壁を越えようとる敵には,今日でいうハシゴ車にあたる折り畳み式の「雲梯」を開発して,一気に火を落とす.敵が地下に穴を掘って進入を図れば,墨家は逆トンネルを掘って迷路で迎え撃つ…
ざっとこうした作戦が兵器の開発とともに,ふんだんに用意された.が,そのいっさいは守り抜くための戦闘だったんだな.


…チョット長くなりそーね.今日はココで切って,明日の日記に続きます.んじゃ,おやすみなさーい.