10

三歳の時に股関節カリエスを患った親父は、足が悪かった。治療の為に右足の股関節を完全に固定してしまったからだ。


――いつもビッコを引いていたっけ…こんな風に


防波堤の上を、自分も右足を引きずりながら歩いてみた。その瞬間に、また記憶が蘇る。


「もう治ったって言ってたやんか!」


世の中にはどうしようもないことがあるという事実を突き付けられた、あの時…


物心ついた頃から、親父は既に入退院を繰り返す身だった。子供だったワタクシには、親父の病気がどんなものなのか知らなかった。入院しなければならないのだから、自分が毎年のように罹る、風邪よりは重い病気なのだろうということくらいは分かっていた。ただ、それでも、しばらくすれば風邪が治るのと同じように、いつかそのうち、親父も元気になれるんだと思っていた。


その期待は、一度は応えられた。


小二の頃だったろうか。親父は息子達を前に宣言した。


「もうお父さんは入院せんでええからな。まだ時々病院には行かなあかんけど、病気は治った。」


やったぁ、と弟と二人で歓声を上げたのを憶えている。それまで親父はずっと、一ヶ月毎に入院生活をして、また親父が入院している間は付き添いのため、お袋まで家にいないことも多かった。そのたびに伯母や祖母が世話をしてくれたが、年端のいかない子供だったワレワレにとって、それが寂しくないわけはなかったのだ。


…続く