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それから二年が過ぎた頃だろうか…ワタクシは九歳、小四だったと思う。その日の定期検診から帰ってきた親父が、家族を集めて言った。また入院することになった、と。それだけなら、別にどうということもなかった。だが、そう言った親父の雰囲気がいつもと違った。そんな重苦しい空気は初めてだった。しばらく沈黙が続いた後、親父はポツリと言った。


もう二度と帰って来れんかも知れん――


絶句している息子達に向かって、親父は続けた。


急性骨髄性白血病。それが親父が患っていた病の名前だった。急性とか骨髄性とかの意味は分からない。でも「白血病」だけで十分だった。そのせいで有名人が死んだとかいうニュースがテレビで流れていたり、学校の道徳の授業で「白血病に罹った8歳の命の物語」みたいな話を見せられたりしていたからだ。「白血病」という言葉は、常に「死」とセットになって、ワタクシの目や耳からインプットされていた。


不意打ちに等しかった。もう親父は入院しなくていいんだ、そう思っていのに、どうして突然そんなことになるのか、わけが分からなかった。


涙があふれた。体のどこかが痛いわけでもないのに、泣くことがあるんだと初めて知った。気が付くと親父も泣いていた。ケガをすれば簡単に泣き出すワタクシをいつも叱り飛ばしていた親父が、涙を流す姿も初めてだった。ティッシュで目と鼻を拭いながら、親父は言った。


泣くなら、こういう時に泣け――


…続く