今年の初めに書いた「オトシタカケラ」の「彼女」が、用事があって京都に出てきた。用件が済んだ彼女を車で拾ったとき、時刻は午後四時を回っていた。


「あり得へん」


一応約束では昼飯を一緒に食べることになっていたのだ。


「ごめーん」


と言う彼女は相変わらずだ。


「もう何か食べたやんな?」
「食ってへんがな」
「ほんまに?…でも、あのな、今日はもう一つ行きたい所があんねん…」
「あん?」
「母の墓参りをしときたいねん」


そういえば、彼女の母親が亡くなってからまだ一年と少ししか経っていない。


「あー、じゃあ付き合ったるよ」
「ええの?」
「いちおー、いっぺん会ったことあるしなぁ、オマエのお袋さん。まあ、正直あんまり憶えてへんけど…。で、どこの寺?」
「○○寺って…ほら、××通りの」
「あー、あそこね。ほなまあとりあえず先に墓参りやな」
「ご飯食べんでええの?」
「アホ、先にメシ食ってたら日ぃ沈んでまうやろ。そんな肝試しみたいな墓参り、怖わーてかなわんわ」


道路が混雑していて、寺の駐車場に車を停めた頃にはもう日が傾いていた。一旦そこに車を置き、お供えの花を買うために商店街へ向かって歩く。赤く染まった西の空に、建物のシルエットがよく映える。何年か前は毎日のように見ていた、三条大橋からの風景を眺めながら、そして今こうしてワタクシと彼女が口数も少なく淡々と歩いていることを少し不思議に思いながら、歩いていた。


…続く。