前菜とイカ墨を使った黒いパンを交互頬張りながら、少し変わったなと思った。一月に会った時は、仕事に対してやる気も出ず、自分の成長を感じることも出来ないといった様子だったのが、さっきの話からは自負のようなものが感じられたからだ。いい兆候かも知れない。

また、彼女は彼女の親類達の老後を自分が養わなくてはならないと考えているらしい。そういう考え方は、彼女自身が生きるつもりであることが前提になっていなければ出て来ようがないことだ。やはりいい兆候だと思った。


それにしても、ここの料理はやはり美味しい。メインディッシュの他にパスタまでついた、かなりボリュームのあるコースだったのだが、難なく胃袋に収まってしまった。そしてデザートを待っている間に、


「そや、けんくんこれ見て、これ!」


と言いながら、携帯で撮影した写真を差し出してくる。彼女が3歳くらいの男の子を抱きかかえている写真だった。


「いくつに見える?」
「27歳」


すかさず答えたところ、一瞬彼女はきょとんとした表情をする。


「違うって!わたしじゃなくて子供の方!」
「ひひひ。んー、まあ3歳くらい?」
「2歳半」
「おー、ええトコついてるやんオレ」
「でな、でな、メッチャ可愛くない?」
「んー、可愛いんちゃう?担当の患者か?」
「うん、今のわたしのお気に入りやねん」


そう言いながら嬉しそうに笑った。


…続く