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都内でも無人の駅があるんだな、と思いながら眺めた街並みは、厭な感じだった。車もそこそこ走っているし、人気がないわけではない。だが立ち並んでいる家々はどれも同じような色と形で、寒々しかった。こういう地域に建っている病院に行くのかと思うと、気が滅入ってくる。明るい清潔な感じは、しないだろう。そして、その予想は、正しかった。


薄暗い照明に、のっぺりとしたリノリウムの床。病院というのは、どうしてこんな、健康な人間ですら暗い気分になるような雰囲気なのだろうか。病人だったら、ますます元気がなくなってしまうだろう。そう思いながら母に付いていく。階段を上がってすぐの202号室の前で、母は「ここ」と言った。


一瞬、戸惑った。てっきり個室だと思っていたのが、相部屋だったからだ。しかし入り口に貼り出されたネームプレートの中には祖母の名前がはっきりと書かれている。ワタクシは意を決して足を踏み入れた。


部屋に入った瞬間、嫌な臭いがした。生きる気力を根こそぎ奪い取ってしまわれそうな臭いだった。部屋に並んだベッドは八つ。全員が老人だった。ほとんどが意識のない状態らしく、鼻からチューブを挿入されている。入り口のすぐ横のベッドをあてがわれていた男性は意識こそあるようだったが、かなり苦しそうだった。息をするたびに「あぁ、あぁ、あぁ」と声を上げた。彼は時々何か言葉を発しているのだが、聞き取れない。
一人、意識のはっきりしている女性がいた。彼女は絶え間なく着物や布団の端をいじりながら時々何かを呟きながらこちらを見た。その目を見て、同じだと思った。アメリカの黒人街で防弾ガラスの張り巡らされた酒屋に並んでいる客と同じ目だった。要するに、希望のない目だった。


そしてその中に、他の老人達と同じように意識がなく、鼻からチューブを挿入された状態の祖母が、横たわっていた。


・・・続く