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あぁ、あぁ、あぁ、あぁ・・・
向かいのベッドの男性からは相変わらず苦しそうな声が聞こえた。いびきをかいて、眠っているように見える祖母に向かって、母が言葉を掛ける。


「お母さん、健が来たよ」


まるで反応がなかった。さっきまで漠然と考えていたことが今、自分の中で動かしようのない現実になった。祖母の意識は消失している。自分が今日ここに来たという事実も、祖母の世界には残らない――。


「聴覚は最後まで生きてるって話やけど…」


母はそんなことを言った。音に反応して脳波が検知されることと、意識が耳に入った音を情報として世界を構築することとは別の問題なのだが、それを説明する気にはなれなかった。


ワタクシは、ポケットに手を突っ込んだまま、ただ、見ていた。もう再び目を開かないであろう祖母を。そして、この部屋を。穴の開いた風船のように萎んで、自由に動くことのできない老人ばかりが詰め込まれた、この部屋を。


あぁ、あぁ、あぁ、あぁ・・・


男性の苦しそうな声だけが、響いていた。

…続く