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駅から出て目の前に広がる風景を目にして、違和感の正体が分かった。


土曜の夜の、渋谷駅ハチ公口。待ち合わせをしている、途方もない数の若者。彼らが身に付けている、途方もない数のシャネルにヴィトンにグッチ・・・今までに何度も見てきた景色と何ら変わりはない。だが・・・


それが、何になる――?


ブランド物は確かにデザインが素晴らしいものが多いし、品質も値段に見合うだけの価値があると思う。だが、それらを幾つ持っていようが、一つも持ってなかろうが、関係ない。あそこに行ってしまえば、同じことだからだ。あのベッドの上で「もう一回」と切望する何かが、バッグやコートやアクセサリーでないことは明らかだと思った。仮にあの老人達に、ブランド物を身に付けて渋谷で合コンをした過去があったところで、あの部屋で過ごさせられる時間が心安らぐものになるわけがなかった。目に映るもの全てが、虚ろに見えた。


人生の意義とか意味とか、そんなことを考えること自体、意味のないことだと思っていた。だが、人間の毎日の営みに、これほどまでの無意味を感じたことはなかった。とにかく虚しかった。すぐ誰かに電話して今感じていることを話したいと思ったが、誰に、どう話せば分かってもらえるのか分からなかった。言いようのない孤独を感じた。


ふと、逃げ出したい気持ちに駆られた。長明や西行や兼好のように、遁世してしまいたいと思った。


そんな状態でハチ公広場をふらふらしていると、携帯が鳴って我に帰った。約束の知人からだった。時計を見ると既に集合時間を過ぎている。


「ごめー、ハチ公口のTSUTAYAってどこ?」


平静を装いながら、言った。


・・・続く