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あんなところで、あんな状態で死を迎えるくらいなら、今夜死んでしまった方がマシだ――


病室で感じた衝撃と、渋谷で感じた虚しさが、繰り返し、繰り返し、何度も、何度も襲ってくる。その度に、「どうせなら、今」という思いに益々引き摺りこまれていった。ふと気付くとスピードメーターが150km/hを軽く超えていて、慌てて足をアクセルから離す…そんなことが何度もあった。ハンドルを握る手に、汗が滲んだ。


このままじゃ、本当に危ない――


今自分が死んではいけない理由を探そうとした。だがいくら考えても、却って死を肯定するような結論ばかり出てくる。


自惚れるわけじゃないが、ワタクシは自分に大いに満足していた。アメリカでそれなりの成果を収めて、ボスにも戦力として認められた。今の研究室では教官にも期待されているし、後輩も頼りにしてくれている。仲良くしてくれる友人もいるし、女に困っているわけでもない。


花盛りじゃないか――


四角いコンクリートの中に置き去りにされ、忘れられていくような死に方をするくらいなら・・・。決して死を望んでいるわけじゃない。思い残すことならいくらでもある。だが、今、このタイミングでワタクシという人間が死ぬ、という物語は悪くない・・・そういう気がしてきてしまう。


くそっ――


こんなんじゃ全然だめだ、と思った。考えれば考えるほど、死の世界に沈み込んでいく感じだった。幸福だった瞬間や、大切な人の顔を思い浮かべようとしてみたが、病室の風景が一瞬にして全てを飲み込んでしまう。


自分の生きる意志の、脆さを知った。


…続く。