「Do you see Evan these days?」


いつものように一階のキッチンで遅い夕食を取っていると,カリール部屋から出てきて話しかけてきた.カリールはアラブ系イスラエル人で,僕が居るのと同じ研究室でポスドクをしている.家具付きで,電気も水道も込みでひと月300ドルで暮らせるこの家にベッドルームを借りることが出来たのも,彼が事前に大家と交渉しておいてくれたからだった.その家にはベッドルームが6つあって,バス・トイレとキッチンは共同だ.多少窮屈だったが,別に不満はなかった.


「No. I was also wondering where he is. He's gone somewhere?」
「I don't know. So I'm asking you, man.」


確かに僕もこの三日ほどエヴァンを見ていなかったが,カリールもそうだと聞いて妙だなと思った.この家に住んでいる学生は僕だけで,他はカリールを除けばブルーカラーの労働者か無職だ.それぞれ生活時間帯もバラバラなので,ルームメイトの誰かと三日会わないという事態は異常ではないが,二人の人間が揃って彼を見ていないという事態は確率的に起こりにくいことのような気がした.そもそもエヴァンは二ヶ月前に仕事をクビになっていたので金が無かった.時々他のルームメイトの食材を勝手に食って,諍いを起こしたことも何度かあったくらいで,どこか遠くに出かけているとは考えにくい.


変だな,他の連中も彼を見てないの?という話をし掛けているところにスリランカ人のアヌーが買い物袋を抱えて帰ってきた.袋には買い込まれた食材の他に,幾つかスプレーが入っている.そのスプレーはどうしたんだ,と聞くとアヌーはやれやれといった顔つきで


「I got a bad smell in my room. It's really bad and I can't sleep, man!」


と言いながら食材を冷蔵庫に詰めていく.最近エヴァンを見たかと聞くと,知らないよ,と,オレは疲れて眠いんだという感じで面倒くさそうに答えて上がっていった.


「It is strange. Three people don't see him.」


カリールはそう呟きながら自分の部屋に戻った.僕はといえば,とりあえず親に金をせびりに行ったんじゃないかと考えて,食べ終わった後の食器を片付け,そして自分の部屋に戻った.


・・・続く