nothing

10

何かが,おかしかった.それも致命的にだ. ジェフが僕も含めて父親に自己紹介をする.最後に一緒に住んでいたルームメイトであることを知った父親は,言った. 「He liked music, didn't he?」 「Yes, he played music every day like...」 「So noisy,huh…

告別式場は街から少し外れたところで,五分くらいで着いた.車から降り,ジェフと並んで中へ入っていく.お悔やみの言葉を英語でどう言えばいいのだろう,そんなことを考えながら建物の廊下を歩き,部屋の中へと足を進めた. 違和感があった. 中は,まるで…

8

告別式の当日.式は四時開始ということだったので,僕は三時頃に研究室から部屋に帰って,着替えた.Yシャツとスーツに袖を通しながら,結局必要になってしまったな,と思った.アメリカに渡る前夜,どうせ一年の滞在だから必要ないだろうと思ったが,それ…

7

翌朝,僕は憂鬱な気分のまま起き出して,大学の研究室へ向かった.カリールが既に同僚やボスに事の次第を話していたらしい.みんな僕に会うなり 「Sorry, Ken」 と言ってくる.別に悲しくはない,憂鬱なだけだ,とだけ返事をして,実験に取り掛かった.身近…

6

その晩,僕は眠れなかった.同じ家の,二つ隣のベッドルームに済んでいた人間が,足の付く高さで首を吊った.その事実だけでも憂鬱だったのに,僕の頭は勝手に回転を続けて,気分は益々憂鬱になっていった.エヴァンの自殺は親の責任だと,カリールは怒りを…

5

クローゼットのハンガー掛けの高さは160cmほどしかない.そこにネクタイを掛けて首を吊ったというのは,尋常じゃない気がした.首が絞まった状態を維持するには,自分の意志で足を挙げ続けていなければならないからだ. そこまでしても,死にたかったのか―― …

4

大家はカリールの言葉には半信半疑だったが,それでも警察を呼ぶことにした.しばらくすると一台のパトカーがやって来た.そのパトカーから若い警官が降りてきて,エヴァンの部屋へ案内しろと言った. 警官は大家から部屋の合鍵を受け取り,カリールと共に家…

昼頃にカリールがランチを食べるために家に戻ってくると,アヌーが起き出してきたところだった.カリールが部屋の臭いはどうだと聞くと,アヌーは今日もひどい臭いだと言う.様子を見るために二人でアヌーの部屋に行ってみると,確かに悪臭が漂っていた.動…

翌日,真夜中過ぎまで実験をしてから戻ってくると,アラブ人のカリールとスリランカ人のアヌー,それにウクライナ人のユウリが家の駐車場に座り込んで話をしていた.三人が話しているのが家のキッチンテーブルでもなくテラスでもなく,家から10歩ほど離れた…

「Do you see Evan these days?」 いつものように一階のキッチンで遅い夕食を取っていると,カリール部屋から出てきて話しかけてきた.カリールはアラブ系イスラエル人で,僕が居るのと同じ研究室でポスドクをしている.家具付きで,電気も水道も込みでひと…