10
何かが,おかしかった.それも致命的にだ.
ジェフが僕も含めて父親に自己紹介をする.最後に一緒に住んでいたルームメイトであることを知った父親は,言った.
「He liked music, didn't he?」
「Yes, he played music every day like...」
「So noisy,huh?」
そう言った瞬間,父親は笑った.エヴァンと同じ笑い方.大声で,大袈裟な笑い.
そう,笑ったのだ.
ふっと,気が遠くなるように感じた.足が地面に付いているのかどうか覚束なくなった.ただ,父親の笑い声だけが耳を衝き,頭の中で響いた.
何故だ.
何故笑う.
お前の息子が首を吊ったんだぞ.
床に足が付く高さで.
自分の意志だけで窒息したんだ.
何故笑う.
笑っちゃいけないんだ.
お前は後悔してなければならないんだ.
消え入りそうな声で,
あいつを殺したのは自分だと,
そう言わなければならなかったんだ.
それなのに,お前は笑うのか.
それなのに・・・
恐ろしかった.
誰も彼が生きていることを喜んでいなかった.
誰も彼が死んだことを惜しんでいなかった.
人の命が,存在が,こんなにも無意味になるなんてことが,あっていいわけがなかった.
NOTHING...
どうしようもなく虚しくなった.そこに立っている気力さえ奪われてしまいそうだった.
「Let's go...」
ジェフに向かってそう言うのが,やっとだった.
アメリカの葬式はいつもこんな感じなのだろうか.車に乗り込みながら,しかし,ジェフは僕が聞くよりも先に言った.
「It was strange. Everybody was like...」
言いかけてジェフは首を振った.僕は黙って,窓の外を見ていた.