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告別式の当日.式は四時開始ということだったので,僕は三時頃に研究室から部屋に帰って,着替えた.Yシャツとスーツに袖を通しながら,結局必要になってしまったな,と思った.アメリカに渡る前夜,どうせ一年の滞在だから必要ないだろうと思ったが,それでも念のためと思い直してスーツと革靴をスーツケースに入れたことを思い出した.といっても,機会があるとしたら葬式よりも結婚式だろうと思っていたのだが.


着替え終わって部屋から出ると,廊下に家の住人達が集まって,何やら話していた.聞いてみると,エヴァンの告別式に行くか行かないかという話だった.ジェフと僕は行くと言い,アヌーは皆が行くなら行く,と言った.カリールとユウリは面倒臭そうだったが,まだ決めかねている様子だ.
しばらくすると,マークが部屋から出てきた.マークは近くの鉄工所で働く労働者で,僕の隣の部屋に住んでいる.その更に隣がエヴァンの部屋,つまり,マークの部屋は僕の部屋とエヴァン部屋の間にあるということになる.そのマークに,カリールが聞いた.

「Do you go?」

マークは,吐き捨てるように言った.

「No. He committed suicide right next to my room. I feel so bad about that. Why do I have to go for a guy who made me feel bad!」

オレの隣で自殺なんかしやがって,最悪の気分なのに,何でその張本人のためにわざわざ出かけなきゃいけないんだ,というマークの言葉に,カリールは頷く.

「That's right! I don't go either.」


それにユウリとアヌーも続いて,結局告別式に行くのは僕とジェフの二人だけになった.寂しい気がしたが,それでもマークの感情は理解できるものだと思った.普通アメリカじゃ土葬が多いけど,エヴァンの体は腐ってしまっていたから火葬になるとか,そんな話をしながら,二人でジェフの車に乗り込んだ.

・・・つづく