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翌朝,僕は憂鬱な気分のまま起き出して,大学の研究室へ向かった.カリールが既に同僚やボスに事の次第を話していたらしい.みんな僕に会うなり


「Sorry, Ken」


と言ってくる.別に悲しくはない,憂鬱なだけだ,とだけ返事をして,実験に取り掛かった.身近に死が起こるたびに感じることだが,一人の人間が死んでも,周囲の人間のほとんどにとって,日常は不思議なほど日常どおりに過ぎていく.誰も何も感じないというわけではない.みんな,何となく心にぽっかりと穴の開いたような気持ちを抱いている.それは泣きたいほど悲しいというわけでもなく,何とかして外に出さないとやり切れないということでもなく,だから結局,いつもどおりのことを,いつもどおりににするしかなくなってしまうのだ.そして,周囲も自分と同じように日常を過ごしているその光景を見て,あいつが死んだなんてまるで嘘みたいだな,なんて思ったりするのだ.
その日の僕も,いつもと同じ事を,いつもと同じようにやろうとし,実際にそうしたのだった.


そしていつものように夜中に家に戻ると,キッチンで同居人のジェフが冷蔵庫を漁っていた.彼は人はいいのだが,スナックとハンバーガーとピザとソフトドリンクしか口にしないので異常に太っている.冷蔵庫から取り出されたのはやっぱりコーラだった.そのジェフが言うには,今日両親が来て,彼の葬儀は明後日の午後に行われることになったということだった.ジェフは続けて,皆で一緒にエヴァンの告別式に行こうと言った.


「I hope we all go there together.」
「Sure. Will you get me a ride there?」
「O.K.」


ベッドに横になった僕は,何となく考えていた.明日,エヴァンの両親たちはどんな顔をしているだろう.その彼らに向かって,僕はどんな言葉を掛けるべきなのだろうか,と――


・・・続く