読破

増補 科学の解釈学 (ちくま学芸文庫)

増補 科学の解釈学 (ちくま学芸文庫)

科学哲学に関する本格的な学術論文.分厚いしテクニカルタームは多いし,正直読むのに苦労した.でも,トマス=クーンの「パラダイム論」が意味することの大きさはよく分かった.今までの僕にとって「科学」と言えば,カール=ポパーの「反証可能性」で,科学理論というのは実験によって常に反証される可能性に向けて開かれていなければならない,というものだった.しかし科学の歴史を振り返れば,ある実験によって,これまで定着していた理論に合わないデータが示された場合,科学者達はその理論が反証されたとは考えずに,そのデータを「解決すべき例外事項」として処理してしまう.つまり大本の理論は保持したままで,その例外を解決するための補足的理論を考え出してしまうのだ.実際に,宇宙空間を満たしたエーテルに対する地球の総体速度がゼロであるという実験結果が出たとき,アインシュタイン以外の物理学者達はエーテルが存在しないのではなく,動体に対するエーテルの総体速度がゼロとなるような理論を考案した.ニュートン力学においては,「光」という「波」が伝わるには,「媒体」が必要だったからだ.しかし,エーテルの存在を必要としない相対性理論が普及して初めて,先の実験がニュートン力学を「反証」したのだと,「後から位置づけられ」たわけである.
こういった事実から何が言えるかといえば,「科学」は「自然」の中に予め存在している「普遍的真理」を「発見」するものではなく,「自然というテクスト」を解釈するものだということだ.したがって「真理」はその解釈によって「創造」されたものなのである.近代科学が目指してきた「普遍的・客観的真理」という理想は今や崩れ,科学も所詮は「科学者という集団に属する人々の合意に基づくルールに従った間主観的世界観」であり,それは「宗教的世界観」や「文化的世界観」と一線を画するようなものではなく,それらの間に違いがあるとしても,程度の違いでしかないということなのだ.


とにかく,刺激的で面白かった.