つくばへごー 8

さて,これで今回茨城で会うべき人にはあったし,やるべきこともやった.あとは,帰る途中で今年から東京に就職した後輩(同行している後輩にとっては先輩)と会う約束を果たせば終わり.しかし約束の時間は夜九時とかで,今はまだ午後四時前である.・・・


鹿島神宮に寄ってくか!歴史も古いしなかなか迫力のある場所やぞ」


というわけで,海沿いの道を南へ走る.途中で道を北浦沿いに切り替え,偶然見つけた酒屋で地酒を買い,ひたすら走る.が,結局鹿島神宮に着いたときには既にとっぷりと日は暮れてしまっていた.でも鳥居の脇に生えるクスの木や,参道にどんと聳え立つ杉並木などは,夜の帳の中で見た方が却って大きく見え,霊的な雰囲気を感じさせる.


運転に疲れた僕は,境内にあるベンチに座り込みだらだらと話し始めた.何故か僕の読書遍歴の話になって,僕が元々国語嫌いで21になるまで活字を一切読まなかったこと,それではいけないような気になって弟にオススメを聞いたら村上龍の「五分後の世界」と言われ,それがハマって村上龍を片っ端から読んだこと,「愛と幻想のファシズム」で娼婦が主人公に向かって,ドストエフスキーの「罪と罰」を「ただの恋愛小説よ」と評するシーンがあって,それで何となくドストエフスキーを手にとってしまったこと,ドストエフスキーの作品は登場人物に関する人間描写が凄まじく真に迫っていて,それぞれのキャラクターで強調されている人間の一面が,実は全て僕自身に潜んでいることを知って震えたこと.それで人間そのものの方に興味が湧いてきて,歴史や哲学の世界にも足を踏み入れるようになっていったこと・・・


暗いところや,水のある場所で話がしやすくなるのはどうしてだろうと思う.飲み会で盛り上がるためのトークではなく,自分の生きてきた時間をただ辿っていくような話.あるいは,自分にとって決定的な傷を負わせることになった出来事に関するシリアスで重い話…


「内藤さんは,死にたいと思ったこととか,ありますか?」


不意に後輩がそんな質問をしてきて,僕は少し驚いた.少なくとも彼女を見ている限り,自殺とは最も縁遠い場所に立っている人間だと思っていたからだ.