読破

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

名著だ.エイブリーやフランクリン,それにマリスなど,分子生物学の,というかDNA二重螺旋の歴史が,しかも読みやすい文体で綴られている.生物の教科書で一度は見たことのある実験も紹介されていたが,その裏では誰が何を考え,そして周囲の人間がそれをどう受け止めたのかが見事に描かれている.
生物学者の誰もが遺伝物質はタンパク質だと考えていた時代,エイブリーは奇妙な実験結果を得た.肺炎双球菌には病原性のS型と非病原性のR型があるが,S型の細胞を破壊した抽出物をR型の菌に混入すると,菌型がS型に変わってしまうのだ.しかもS型の抽出物からタンパク質を除去しても,やはりR型の菌はS型に変わってしまう.彼はその「形質転換物質」を突き止めるため,菌の抽出物に含まれている物質を分離し,繰り返し実験を行った.その結果,S型の菌から抽出したDNAを混入した場合にのみ,R型の菌がS型に変わることを見出した.これが,生物の形質がDNAによって支配されていることを示唆した世界最初の研究報告である.
しかし,当時は誰もその結果を受け入れることが出来なかった.しかも,最も辛辣にエイブリーを批判したのは,何と彼の同僚なのだった.・・・etc

物理学者シュレーディンガーは晩年の著作「生命とは何か」で,「生命力」という神秘的な概念を用いなくとも,最終的に生命の仕組みを物理化学的な手法で記述できるだろうと予言した.この言葉は若き日のワトソンやクリックの心を動かし,DNAの二重螺旋の発見へと導いた.


しかし,シュレーディンガーはもう一つ,重要な問いを挙げていた.それは,「原子は何故かくも小さいのか」という問いである.これは正確には,「どうして生物は原子と比べてこんなにも巨大でなければならないのか」という意味である.


その答えを解説していたら文章が長くなり過ぎるので,本書なり,シュレーディンガーの著作の方を実際に読んで頂こう.