つくばにて

高岩文雄という研究者に会ってきた.30年近くにわたって植物遺伝子の発現機構やシグナル伝達,タンパク質の蓄積・分泌経路などの基礎研究に携わってきた人だが,最近になって遺伝子組換えによる医療用作物の作成に取り組んでいる.遺伝子組換えに対するイメージは悪いが,この人の開発したお米を食べているだけで,花粉症の症状が治まるとすればどうだろうか.それも別に抗ヒスタミン剤のような薬剤ではなく,スギのアレルゲンタンパクを米に蓄積させるものなので,実質的に減患療法によってアレルギー体質そのものを改善してしまうという代物だ.もっとも,厚生労働省や医薬業界の反発に遭って臨床試験すら実施できない状況らしいけど.

「30年間基礎研究をやって積み上げてきたものを,世の中に還元しようとしたら,思わぬしっぺ返しを喰らった」

と,政治的な問題について話している間は高岩さんの表情は疲れていたが,話がだんだん若い頃の話になると生き生きしてきた.聞けば,学生時代は所属していた研究室にお金がなくて,でも自分は実験したいもんだからって自分でバイトして,そのお金で実験試薬を買っていたという.


そーだよな,どーしてもやりたい実験があって,そのお金が足りないんだったら自腹を切ってでもやる.それくらいの情熱は,あってもいい.あり過ぎるなんてことはないはずだ.


「基礎のないところに応用はありません.」


ブレイクスルーを起こすような応用技術を開発しようとしたら,必ずどこかで基礎に戻って来なきゃ出来ない.


うん,いい話を聞いてきたと思う.