よくやった

いちばん弟子の学会デビューは,無事終わったらしい,いや,無事どころか,なかなかの評判だったようだ.友人のあらっくんは日記でこう書いてくれている.

期待していた講演は、なぜ新規手法が良いのかというのをある例と対比させることで優位性を示し、説得力のある発表であったと思う。もう少し整備が進んだら使ってみたいなと思う内容であった。ただ、その「整備」が力技なので、「弟子ガンバレ!」と思った次第である。

他にも方々から褒めてもらえたらしく,昨日,弟子からなが〜いメールが届いた.


実験計画から論文の執筆まで,とりあえず日本にいる間に教えられることは全部教えた.二年前,まだ3回生だった彼女が僕のいた研究室に見学に来たとき,直感で「コイツは」と思い,お前は絶対にウチに来い!と何度も念を押した.そして彼女が4回生になり,実際に一緒に実験をしてみると,自分の直感が正しかったとすぐに分かった.
彼女には研究者が持つべき素質のほとんどが備わっていた.実験が上手くいって結果が出たときは楽しくてしょうがないという表情をし,上手くいかないときは「ちゃんと結果が出るまで今夜は帰らん!」というような意地もある.何か面白そうな文献があると,その分野に関する専門書を図書館から何冊も借りてくる.それも努力して情報を得ようとしてるというよりは,「ないとーさん,これおもろいわ!」という感じの,好奇心の塊みたいなヤツなのだ.

唯一の問題は,プレゼンだった.普段はあれほど明るくてエネルギーの塊みたいな彼女が,人前に立つとカチンコチンなのである.更に悪いことに,研究に必要なことは一通り教えてきたが唯一プレゼンだけは,面倒を見てやることが出来なかったのだ.彼女の発表前日,僕は携帯にメールを打った.

「20回くらいは練習しろ.そうすれば緊張で頭が真っ白になっても勝手に口が動いてくれる」

彼女と同様に人前で喋るのが苦手な僕が,いつも採用する方法だった.


昨日彼女に労いの電話を入れたとき,彼女は言った.

「ほんとぢゃな,めっちゃ緊張しとったけど前の晩にめっちゃ練習しといたら,勝手に口が動いてくれたわ」

そう,それでいい.一度でも成功体験を積むことが出来れば,それだけで自信になる.
よくやったと,改めて言っておこう.そして彼女を見出し,彼女に教え,彼女を鍛えたのは僕なのだと,自惚れておきたい.
門田,お前は,僕の誇りだ.