努力と才能

"Genius is 1% of inspiration , and 99% of perspiration."

---Thomas A. Edison---

有名な言葉である.直訳すると,「天才とは,1%の閃きと,99%の汗だ」となる.日本語では,これを転じて「成功とは,1%の才能と99%の努力である」の方がよく言われる.そして「努力することの大切さ」が謳われる.

僕がこの言葉を最初に聞いたのは中学のときだったような気がするが,授業中に先生が黒板に書いたこの言葉を見て,
「でも,たとえ1%とは言え才能が無かったら,どんなに努力しても99%止まり,成功は出来んってことちゃうん?」
と思ったもんである.今でもそれは基本的には変わっていないが,当時のようなニヒリスティックな考えとは違っていることも確かだ.

大学院入試の前だったが,僕は例によって周囲の人間よりも周到に準備をしていた.「絶対に受かるため」ではない.もちろん合格する可能性を最大限に高めることは最重要事項だったが,「これだけやってダメだったなら,それこそ才能が無かったってことだからアッサリ諦めよう」と思っていたんである.中途半端に努力して試験に落ちたら,それこそ諦めが付かず,もう一度挑戦すべきかどうかで迷ってしまい,それこそ時間の無駄だ.だからもし不合格だったなら,さっさと就職活動に勤しむことに決めていた.決めてしまうと本当に心に余裕が出来て,試験前日でもプレッシャーは全く感じなかったほどである.

試験の結果は,学部全体で1位という自分でも驚きの結果だった.要因はもちろん周囲よりかなり多めに試験勉強をしたことがいちばん大きかったであろうが,同時に,僕自身にも努力次第でトップの成績を取れるくらいの(勉学の)才能はあったらしい,と思った.もしも僕が全くの無能であったなら,1位どころか,努力の甲斐なく不合格だったはずだからだ.そして,プランBを立てておいたお陰で,最後までリラックスできたことも忘れてはならないと思っている.

努力は大切だが,多くの人は努力を強調し過ぎるように思う.確かに「僕は才能ある人間です」なんて言う人間はバカだと思われるだけだし,「努力だけは誰にも負けません」という言葉は好感を以って迎えられる.だが自分の過去の成功体験を,全て「努力」一つに還元してしまうことに対しては,僕は異を唱えたい.

なぜなら,あなたが成功したのは,あなたが無能ではないからである.喩え1%であっても,その成功に必要な能力を持っていたからである.仮にその成功が他人からの協力によるものであったなら,少なくともあなたには他人の協力を得るだけの魅力やコミュニケーション能力があったからである.先人の指導によるものであったなら,あなたには優れた意見を素直に聞き入れるだけの謙虚さがあるのである.そしてあなたの成功において,あなた自身の能力が果たした役割は,恐らく,1%どころではないはずなのだ.そして,そのあなたの能力の一つ一つを,忘れないことが大切なのだ.

・・・という話,少なくとも彼女にはウケが良かったのですが.