大切なこと

今回の学会を聞いてて改めて思ったのだが,トウモロコシやシロイヌナズナの研究ではトランスポゾンやT-DNAを使ったミュータントパネルを用いた研究がかなり多い.のに対して,イネの研究では同様のミュータントパネルを用いた研究報告を目にすることは稀である.今までは,トウモロコシやシロイヌナズナの方が材料が充実してるんだなー,イネはまだまだか…としか思っていなかった.
どうやら違うんである.
シロイヌナズナやトウモロコシの研究はアメリカでいちばん行われている.そのアメリカでミュータントパネルを作った人たちは,自分の材料をとにかく売り込んでいるのだ.誰かの発表を聞いて,「あ,この遺伝子の変異体ならウチの材料にあるから,あなたのところで使ってみてくれないか」とか,「今はないけど,共同研究してくれるなら大々的にスクリーニングして変異体を作って渡してあげるよ」とか,学会の間中ずっと動き回っている.もうほとんどビジネスマンみたいなもんである.変異体を売り込み,共同研究によって成果を挙げ,研究費を取り,更に変異体を作り出す・・・まるっきり資本主義だが,とにかくオープンで協力的な関係が,次々と研究成果が挙がっているその現場を目の当たりにした思いがした.
日本や韓国や台湾のチームも,イネを使って物凄い規模のミュータントパネルを作っている.だが,彼らはその規模の大きさを喧伝することはあっても,個々の材料を他所に売り込むようなことはしないし,そんなことをしてる様子も想像できない.いくらオープンリソースではあっても,作りっぱなし.「お望みの材料があるかどうか,自分で見てください」という感じ.囲い込んでいると言った方がいいところもあるくらいだ.
どちらのやり方が良いか,少なくとも僕には明らかに思える.
材料じゃなくても,何かがあればいい.他所が研究しようとしていることに対して,自分が得意にしてるテクニックが役に立ちそうだと思えば「あなたの材料を使って僕が実験すれば面白いことになりそうじゃないですか?」.アイデアだけでもいいだろう.自分が取り組んでみたいテーマがあったときに,材料を持っているチーム,そしてテクニックを持っているチームと協力し合うことが出来ればいいのだ.

今まで,学会は自分のテーマを発表してインプットを貰うとか,他人の研究を聞いてヒントを得るとか,そんな程度にしか考えていなかった.それはどうやら違う.これからは,「協力できる相手を探す場所」という認識に改めなければならない.