昔の記憶

温室で作業をしながら,ちょっとしたことを思い出す.小学生の頃は毎年学校の裏庭でジャガイモやサツマイモなんかを植えさせられたりしたものだったが,そういえば僕は植物を育てるのが誰よりも上手かった.何故か僕の育てた作物はいつもいちばん大きく育った.同級生のものが自分のより小さいのを見るのは気分が良かった.そんなこと今の今まですっかり忘れてしまっていたが.
何年生の頃だったかは忘れたが,ヒマワリを植えた年があった.相変わらず僕のヒマワリは誰のものよりも太く高く育った.蕾が出来始めた頃に台風が来た.台風上陸の前夜に棒を立てて紐でヒマワリを括り付け,支えを作った.
台風が通り過ぎた翌朝,不安な気持ちを抱えて様子を見に行くと,ヒマワリは無残に曲がってしまっていた.一番上の固定紐のところで,ほぼ直角に近い形で歪んでいる.僕は焦って何とかヒマワリを真っ直ぐに戻そうとした.1度,2度,3度と手に力を入れ,紐を上にずらして少しでも真っ直ぐな状態で固定し直そうとした.
ボキッと音を立てて,ヒマワリは折れた.
僕はヒマワリの蕾を握ったまま茫然と立ち尽くし,あとには頭を失ったヒマワリだけが残った.

今にして思えば,あのときヒマワリが曲ったのは台風のせいではなかったのだろう.ヒマワリは花を真上ではなく,寧ろ真横に近い方向に向ける.つまり,僕のヒマワリは開花直前だったのだ.ヒマワリのことをちゃんと知りもせず,僕はヒマワリを治そうとした.別にどこも悪くなどなかったのに.