資本主義的研究世界

http://anond.hatelabo.jp/20090222224732
は確かにヒドイ場所だね.7人入った学生のうち5人が数か月でドロップアウトするって同じ日本の,しかも同じ大学の中とは思えん.まーしかし何とゆーか,ちゃんとその地獄を脱出して,別の生き方が見つかってるみたいで何より.研究室の選択は事前の情報収集がどーのとか言う人も多いけど,半ば以上運だからなー.仮に教官がサイアクだったとしても,新入生や入学希望者に対しては不思議と歓迎ムードになってしまうもので.単なる日本的体裁主義の表れかも知れないけど.

でもこの記事のブクマは当然と言うか何と言うか,ルサンチマンのカタマリになってるよ.あと「アメリカの大学院では,院生に対して学費免除どころか生活費まで支給されてるのに,日本はゼロ.育英奨学金は卒業した頃には借金1000万」とか.まー実際僕も借金まみれです.とゆーか育英以外の無利息奨学金も貰ってたから総額で1200万くらいあるぜ.全然気にしてないけど.

で,「アメリカの大学院が日本の大学院と比べてどんなに素晴らしい制度が整ってるか」って意見を最近そこかしこで見かけるようになってきたけど,僕の意見は180度違う.お金の心配さえないなら,そして本当に「研究」が好きなら,博士号は日本で取っとけと言いたい.

実際僕は博士課程のときに1年半ほど共同研究とか言ってアメリカにトバされてて,それなりに成果を出せた結果,共同研究相手のプロフェッサーにも認めてもらえて,「こっちの大学院に移って来ないか」と誘われたりした.

確かにアメリカだと収入は得られる.月々1,600ドルほどだ.でもそのお金は,もちろんタダじゃない.日本のがタダ働きなら,こちらはむしろ大義名分を持って働かされる.まずはTeaching Assistantをアシスタントってのは名ばかりで,実際には学部性に対する講義を一科目分,教授の代わりにまるまる受け持たなくてはならない.しかもアメリカでの一科目は,日本のように週一ではない.月水金の50分×3回か,火木の90分×2回です.ほとんどの大学院生は,TAを任される2年の間ほぼ完全に研究プロジェクトが停止する.そしてTAが終わってもなおResearch Assistantとして自分の博士論文とは関係ない仕事をしていないとお金は貰えない.さらに,院生は院生として講義を取り,定期的に小テストと,学期末のファイナルをパスしないといけない.これらの要求を全てクリアした上で,自分の研究をして投稿論文を獲得しなければ博士号は手に入らない.
だから僕は迷うことなく,プロフェッサーに答えた.「いや,日本の方が簡単にPhDを取れるんで,帰ります.」

アメリカに比べて日本の大学院教育がいかに甘いか,ということを力説する人は多い.しかし僕はプロフェッサー養成機関としてのアメリカの大学院よりも,実験以外は特に何もしなくてよい,日本の大学院の方が「研究者」を育てるのには良い環境だろうと思う.それは何よりも思索を深めるということを助けてくれるからだ.対して,アメリカ製ドクターの見識は色々やらされる分確かに広いが,どうしても深みに欠けてしまう.僕は実験の合間に大量の文献を読み,また専門や専門外の本も沢山読むことができた.でももしアメリカに居たら,そんな余裕はなかなか持てなかっただろう.

そして実際こっちでポスドクをやってみて感じるのは,アメリカで学位を取った同僚たちが,必ずしも僕より研究者として優れているわけではないということだ.また,こちらでポスドクをやってる他の日本人達を見ても,アメリカ製ポスドクより優れた成果を挙げる人が少なくない.もちろんこっちに出てくるポスドクにはそもそも優秀な人が多いということもあるだろうが,彼らがもしアメリカでPhDを取っていたら,果たしてもっと優秀なポスドクになっていただろうか…?

というか,お金がどうのとか言って,苦学してまで大学院に行きたくないと思うんだったら,最初から大学院なんか来ない方がいいのである.バイトしなきゃいけないのが苦痛だと思ってる人に問おう.仮に大学院が収入を保証してくれたとしたら,今バイトに使ってる時間を何に使う?「もちろん実験です」と答える人は,いい研究者になれるかも知れない.「いやー,バイトも結構いい気分転換になるしなぁ...」と思った人は素晴らしい研究者になれるかもよ.