考察

 以上のことから,転移因子mPingの活発な転移は,イネ品種銀坊主の遺伝子を破壊するのではなく,むしろ新たなcis因子をプロモーターへ付与し,多数の遺伝子の発現量および発現パターンを変化させていることが明らかとなった.これは,これまで考えられていた以上に,転移因子が遺伝子の発現制御に影響を及ぼすことが意味している.また,mPingによって引き起こされる突然変異には機能喪失型よりも機能獲得型が優占すること,さらには結果的に植物体が特定のストレスに対する抵抗性を獲得し,何らかの環境変動に対して前適応(環境が変わってから生物の適応進化が起こるのではなく,環境変動以前の段階で,生物集団の中に蓄積されていたランダムな変異の幾つかが,偶然に変動後の環境での生存に適していること)し得ることを示唆している.また,転移因子が動物や植物だけではなく,細菌のゲノムにまで豊富に存在していることから,生物の適応進化において,転移因子はこれまでに考えられてきたよりも遥かに大きな役割を果たしてきたと考えられる.

おしまい.