月夜の晩に

もうすぐ中秋の名月だけど、今夜の月もめっちゃ綺麗で、思わず嫁に電話してしまった。京都は雲ひとつない夜空だったみたいだけど、茨城はまだら雲が出てる。これが月の光に照らされて、複雑な陰影が浮かび上がってて、しかも雲が結構風に流されてたもんだから、雲が月に掛かったり(でも月自体は透けて見える)、また現れたりと、次々と表情が変わる。飽きることもなく、しばし見惚れてしまった。

そんな月を見上げながら、こんな月夜に、月を詠んだ歌を暗誦できたら風流だよなぁ、とふと思ったんである。しかし、月の歌はちょっとストックが少なかった。最初に浮かんだのも、あろうことか藤原道長による「このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることの なしとおもへば」だし。こんな「オレ、サイコー」なんて歌、秋の月夜に全然似合わんじゃないか。道長死ね!・・・って、とっくに死んでたね。南無阿弥陀仏

次に浮かんだのが「ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる」。この歌、百人一首では一字決まりってやつで、人生で最初に憶えた和歌なんだけど、妙に好きなんだよなー。でもこの歌の中じゃ月さん完全に空気じゃないか。よって却下。(ちなみに、この歌は実は恋歌なんじゃないかって思う今日この頃。気になるあの娘の声がすると思って振り向いてみたら、違う、キミじゃない…ってシチュエーションを、どうしても連想してしまうのです)

あとは「あまのはら ふりさけみれば かすがなる・・・」もあったけど、これも何か雰囲気が違うしね。というわけで、月歌をググッてみたわけです。

そしたらやっぱり、いい歌ってあるもんですなぁ!

こぞ見てし 秋の月夜は 照らせども 相見し妹は いや年さかる

この歌、柿本人麻呂が、奥さん亡くしたあとに、去年の秋いっしょに見た月は変わらないけど、君とは歳がどんどん離れていく・・・って意味らしい。切ない。でもこの切なさこそ、秋って感じがする。

そして特に素晴らしいと思ったのが、これ。

秋の夜の月の光はきよけれど 人の心の隈は照らさず (後撰集)  

秋の月の光は清らかなのに、人の心の奥底までは照らしてくれない。。。って、これ、最強でしょ!死ぬまで忘れたくない和歌として、記憶に留めておくと決めました。