わが師

お前の師匠は誰かと問われたら、大学院での教員でもなく、アメリカ時代のボスでもない。修士課程時代にトバされていた先である、茨城県の山間にある小さな研究所で僕を指導してくれた人だった。今はそこを辞めて東大の準教授を経て、広大の教授になってるけど。

その師匠が僕に向かっていつも言った言葉。
「何で?」

実験の結果が出て、テンション高めで見せに行くと「へえ、面白いね。でも何でこうなったの?」と言われて、何度フリーズしたことか。でもそう言われ続けてるうちに、思考がブレイクスルーを起こす瞬間を何度も体験した。問いの深度を上げるというのがどういうことなのかを、身をもって知った。師匠に教わっていなかったら、今の僕はなかったと思う。

その後僕はアメリカに行き、成果も上げたし予算も取れるようになったけど、学会で師匠と会って話したりすると、自分はまだまだ小者だなーと思ってしまう。どう言えばいいのか分からないけど、師匠の何気ない一言が、僕の自信を大いに揺るがすんだよね。そういう体験は一瞬不快だけども、そこからまた深く考えさせられる時間がやってくるわけで、僕にとっては本当に貴重な存在なんだと思う。

その師匠が、CRESTで採択された研究課題の共同研究者として名を連ねていたらしい。僕がさきがけで採用されたのと同じ研究領域なので、これからしばらくの間は顔を会わせる機会が増えそうである。

嬉しい。そして楽しみである。