完璧主義の落とし穴

河合隼雄「影の現象学」を読んでいて、これはメモッておかねばと思った箇所があるので、そうする。

私のところへ相談に来る高校生のクライアントは、実に正確に時間を厳守する人であった。それも真に見事というほかはなく、約束の時間になったまさにそのときに呼び鈴が鳴るのである。あまりのことに感心して、彼がよく時間を守ることを指摘すると、彼は喜んで時間厳守がどれほど人間にとって大切なことであるかを力説し、自分はそのためにどれほどの努力を払っているかを説明した。感心した私は「それじゃ、貴方は今まで遅刻欠席全然なしという生き方をしてこられたのですね」と言うと、彼も釣られて「ええ、私は全然・・・」と言いかけて絶句してしまい、我々は顔を見合わせて噴き出してしまった。というのも、このクライアントは実は学校恐怖症で、学校をよく休み、そのときは3年も遅れていたからである。
 この高校生が学校恐怖症になった原因は他にあるが、それを回復困難にする理由の一つに、彼の完全癖があった。彼は一日欠席すると、それをカバーしようと思って家で勉強する。しかしあまりにも完全にしようとするのでどうしても全部することができず、次の日も休んでしまう。結局そのようなことが繰り返されて欠席期間が長くなってしまうのである。
 私は「貴方のようにそこまで熱心に遅刻しないように心掛けておられる人が、他人よりも3年遅れてしまい、それに反して貴方から見れば遅刻をしたりしていいかげんの人生を送っている人が普通に進級してゆけることをどう考えますか」と言った。つまり、この事実によって彼は自分の只管完全を求めて生きる生き方には、実に大きな欠陥があることを認識することが出来たのである。

こういうパターンには本当によく出くわす。人に迷惑を掛けることを極端に嫌う人が、一人で解決しようとして最悪の事態を引き起こしたりね。

影の現象学 (講談社学術文庫)

影の現象学 (講談社学術文庫)