水曜日

日課の論文チェックをしていたら、R. Keith Slotkinの名前が入った論文を見つけてしまった。今まではアイツの名前を見るとしたらFirstだったのに、今回は最後になっている。。。あんにゃろう、もう自分のラボを持ちやがったのか!

R. Keith Slotkin。僕がまだVisiting Studentとして今の研究室にいた頃に、彼がPh.D修了後のポストを求めてウチのラボを訪れたことがあった。その時に彼が行ったプレゼンの内容にスゲーなぁと感心していたら、間もなくNature Geneticsに彼の論文が掲載された。それから1年後、僕が書いた論文を、ボスはノリノリで同じNature Geneticsに投稿しなさいと言ってくれたわけだが、敢え無く撃沈した。それでもPNASに掲載されたから満足過ぎるほどだったわけだが・・・まあ、このときは彼のことをそんなに意識していなかった。

 でも、次は違った。今度は僕がポスドクとして行っていた研究から夢にも思わなかったような成果が出て、ボスも「これはNatureよ。分かる?Natureナントカじゃなくて、Big Natureよ!」となっていたそのときに、アイツの論文が世に出てきたのだ。Cellから。もちろん第一著者は、R. Keith Slotkin。またアイツに先を行かれた!と、僕は思ってしまったのだった。クソッ、次こそアイツより先に行くんだと。

 でも、また負けた。大きな予算を取って、僕もいよいよ研究チームを作っていく時がきたかと思っていたその矢先に、アイツはもう自分の研究チームを作ってて、論文を出しましたよと。何なんだよちくしょう!

 僕のこれまでの業績は、自分でも十分胸を張れるものだと思う。周りの研究者からもしょっちゅう凄いですよねと言われては、まーねーヘヘヘとドヤ顔になってみたりする。でも、アイツの名前を目にするたびに、胸がザワつく。アイツにだけは勝ってみたいと思う。僕の人生においてそれは大して意味をもつことではないんだけど、アイツにだけは、どういうわけか物凄い闘争心が湧いてしまう。その理由が自分でも全然説明できないのだけど、何故か、そうなってしまうのだ。

 しかし、アイツとの接触といえば、学生時代にセミナーを聴いたことと、とある国際学会で発表し合ったあとに、人から紹介されて自己紹介を交わしただけだ。それだけでしかないアイツのことを、僕はどうしてこんなに意識してしまうのだろう。でも、アイツの自己紹介が、これまたニクいほどカッコ良かったのだ。僕らを引き合わせてくれた人が、ヘイKeith、こっちはケンだ。ケン、こいつがKeithだ。と言ってくれたのを引き受けて、アイツは僕に向かって手を差し出しながら、

「Keith. I know your work.」(キースだ。君の研究は知ってるぜ)

と言う。何てカッコイイことを言いやがるんだと思った僕は、

「Ken. I know yours, too.」(ケンだ。オレも君のことは知ってる)

と言い返しておいた。本人としては、一応火花を飛ばしてみたつもり。…でも、そうだ、僕はあのとき思ったのだった。いつかコイツに「知ってる」ではなく「凄い」と言わせてやりたい、と。

明日には今日書いたことなんてまた忘れてると思うんだけど、でも、今度こそ!