4 墨子:墨家思想2


で,こんなエピソードもある.

ある時、宋という小国が大国楚に攻められそうになった.さっそく墨家集団は宋に入って防衛の準備を進めたんだが,墨子自身はたった一人で楚の国の都に出向いて楚王に面会を申し込む.
楚王に会って,墨子は言った.
「もうワシら墨家集団が宋国に入って防衛の準備は万端どす.アンタらも城攻めの新兵器を開発したとゆーけども,ウチらには敵いやしまへん.宋を攻め落とすのはもうムリですさか,無駄な出兵はやめときはなれ」
とはいえ楚王も自信満々.ソンナコト言われても出兵をキャンセルしたりはしない.ソコで墨子は,楚が勝つか宋が勝つか,王の目の前でシミュレーションをやろうと申し出た.楚の将軍が連れてこられ,墨子と対戦したのネ.将軍はコレだけの兵士をココに配置して,ここから攻める.じゃあワシらはコレだけの兵をココに置いてこんなふうに防いで,でもってココから逆襲するetc... で,墨子が勝っちゃう.ワオ.そして墨子はあらためて言う.


「王さん,せやから宋を攻めるのは無駄でっせ.おっとっと,今ワシをここで殺しても同じ事ですワ.ワシの弟子ら,みんなこの作戦を知ってとりますねん.ワシを殺しても王は勝たれへんし,逆にたった一人でやって来た墨子を恐れて殺したなんて,ソレコソ全国の笑いモンでっせ」


結局、楚王は墨子をそのまま帰し、宋への出兵も取りやめたそーな.こんなハナシがいくつもあるらしい.ドコロまで実話かハッキリしないけど,墨家の雰囲気をよく伝えてるんでないかな.


頑固一徹で柔軟性に欠けていることを「墨守」という.悪い意味のコトバだが,兼愛・非攻をテッテテキに説き,戦争とあれば「専守防衛」に徹し,防衛戦争に失敗すれば集団自殺も厭わなかったという,墨家集団に由来する.彼らはヒタスラに自分達の主義・思想を守り抜こうとした.そして,始皇帝率いる秦の前に滅んだ.


最後に,墨子の人柄が表れている逸話を.


白い絹の練(ね)り糸が黄色にも黒色にも染まるという話を聞いて,墨子は泣いた.人の性質の善悪が,環境や教育によって決まってしまうコトが悲しかったのだと.


さて,明日は初めて中国を統一した「秦」がチョー強力になった背景のかなりの部分を占める,「法家思想」ですな.徹底した現実主義.