補足:法家思想の難点

いかんいかん.法家思想の限界に触れるのを忘れていた.実は難点もあるのだ.確かに,秦は「法」によって急速に発展し,中国を統一した.しかし「法」は,秦が僅か三代で滅んでしまった要因のヒトツでもあるんである.


秦の法は厳しかった.例えばある村に「兵士を何人駆り出して,いついつまでにどこどこへ連れて来い」という命令が下されたら,人数が足りなくても厳罰.到着が遅れても厳罰.理由は問われなかったのね.川が増水して渡れなかった,というだけでも待っているのは死.そうなると途中で逃亡して隠れてしまう人間は増えるし,どうせ死ぬならと反乱を起こす連中も出てきたわけ.で,至る所でビクビクしながら逃亡生活を送っていた流浪者達もどんどんその反乱に加わって大規模になる.更に始皇帝の死後は常態化していた内部の権力争いによる政府の弱体化もあって,あっという間に秦は滅亡してしまったのでした.「法家思想」は,その内容をその通りに実行できるリーダーがいればカンペキに上手くいくけれど,そんな人間もまたメッタにいないってワケね.あと,キビシイ法律で民衆を縛り付けるのは,乱れた秩序を回復し,国力を取り戻そうとする時には役に立つけど,いざ平和な時代になってみると全く通用しなくなってしまうのも事実.
「時代が変われば人々が行動する基準も変わる」ってのは韓非子が自ら言ってたことなんだけどね.だから「法」もまた時代の要求に合わせて変化しなきゃイケナイものなんだろーけど,ソレもまた不可能に近い至難のワザですな.以上,法家思想.