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さて、そろそろ帰るか。時計を見て苦笑する。七時間半掛けてやって来ておきながら、滞在時間は二時間にもならない。


車に向かいながらキーを取り出す。と、また一つの記憶が呼び起こされてきた。



親父が死んでから二年近くが過ぎようとしていた頃、高校二年の時だった。受験シーズンの終わりを迎える時期で、受験が終わった三年生には運転免許を取得する人も出てくる頃だった。


自分は高校から家に帰る電車を降りて、改札に向かっていた。何となく駅前のロータリーを眺めながら。


駅の出口には迎えを待っている様子の高校生が立っていた。そこへ車が一台入ってきて、その高校生の前で止まった。父親らしい男の人が車から降りてきて、お前運転するか、という感じで高校生にキーを手渡した。父親は助手席に座り、高校生は運転席に座って、ドアが閉まり、車は去って行った。


歩いていたワタクシの足は、止まっていた。車が去った後のロータリーを、呆然と眺めていた。今目の前で起こったことは、何気ない日常の一コマだった。本当にありふれた情景のはずだった。でも…だけど…


自分には、絶対に起こり得ない――


辛いわけじゃなかった。悲しいわけでも、寂しいわけでもなかった。ただ、知ったのだ。大多数の人にとって当たり前のことが、自分には決定的に欠けている、と。


でも…


SFで借りた“プレミアム”のレンタカーに乗り込みながら、思う。


欠けてることが、そのまま不幸ってわけでもないんだよなぁ――


…続く