花屋を見つけたとき、こんなところに花屋なんてあったっけ、と思った。そこは普段から人通りの多い通りで、ワタクシ自身今まで何度も通ったし、そのすぐ近くの場所をを待ち合わせの場所に使ったことも何度もあったからだ。


「あかんなぁ〜。普段自分に用事のないトコってホンマに見てへんもんなんやな」


と言うと、彼女も同じことを感じていたらしい。


「わたしも気付かんかったわ」


と、苦笑していた。


店内は広くはなかったが、並んでいる花はどれも趣味がよかった。その中から百合とツツジを足して二で割ったような形をした、黄色い花を買う。一応店員に名前を聞いてみたが、すぐに忘れてしまった。


花を携えて元来た道を歩きながら、どこでご飯にするか相談する。時刻は五時半、二人とも昼を食べておらず、どうしようもなく空腹だった。と、彼女が言った。


「AL MATSUOにする?」


“AL MASTUO”というのは寺町二条にある少し格式の高い感じのイタリアンの店で、少し値段は張るが本当に美味いものを出してくれる。それでもランチは手ごろな値段で食えるので、京都に住んでいた頃はよく行ったものだった。


「おお、ええな。そーいやあそこももう長いこと行ってへんし…って、あれ…?オレがあの店に行ったの、オマエと一緒に行ったんが最後やわ…ってことは、6年も前、かぁ…」


そうだった。最後にその店に行ったのは彼女との交流が断絶する前のことだった。今でこそ当然のように彼女と並んで歩いているが、ほんの九ヶ月前まで、ワタクシと彼女の関係は切れていたのだ。


・・・去年まで彼女が研修医として働いていた病院の上司は男尊女卑の激しい人で、彼女は職場でも冷遇されていた。そして母親が危篤となった時も、彼女は休暇を貰えずに母の死に目に会えなかったのだ。彼女はしばらく前が見れなくなった。「やっぱり彼が死んでから、わたしの人生おかしくなった・・・」と呟いたこともあった・・・。


しかし、そういうことをワタクシは、他の友人を通して聞いて知っていたというに過ぎない。つまりワタクシは・・・


最悪の状態にあった彼女を知らない――


今ワタクシは彼女と共に彼女の母親の墓参りをしようとしている。だが母を亡くした時の彼女を知らないワタクシは、彼女に同情する立場にはない。後からやって来た人間が、彼女の最大の理解者みたいな顔をして憐れむなどということは、絶対にやってはいけない。といって、腫れ物に触るような態度でもいけない。腫れ物に触るのは、誰にでもできることだからだ。


普通にやろう――


そう、思った。6年という時間の重さを感じながら。


…続く