デザートが出てきた。美味しさは保証つきである。彼女はクリームブリュレを口に運んで昇天しそうな表情になっている。


「何をイキそーな顔しとんねん」
「えー?美味しいやん。美味しいやろ?」
「うん、特にブリュレが美味いね」


と下らない会話をしながら、職場を変わったのは正解だったらしい、と思った。静岡での上司は本当に最悪だったらしく、仕事が全く楽しめなかったと言っていた。今の職場は、少なくとも彼女に医者としての自負や喜びをある程度は与えてくれている。


食べ終わってからコーヒーを啜りつつ、今付き合っている彼氏に関する愚痴を聞く。今はそういうのも軽い会話として楽しむことができる。昔だったら彼氏彼女についての愚痴を聞いたら「そんな相手はダメだ」とか「そんなことで愚痴るのはおかしい」なんて、偉そうな忠告をしたがるのがクセだったのだけど。ちょっとした不満なら、適当にガス抜きをしておけばどうということはないのだ。もし深刻な状だったらそういう話し方をするものだし、それは既に愚痴とは言わない。


そろそろ行くか、という段になって財布を開くと、お互いに万札しか持っていなかった。ワタクシは先手を制して言ってみた。


「じゃあゴチソーサマってことで」
「マジで!?・・・まあええわ」
「え、マジで?」
「うん、まあ、ここの料理やったら奢り甲斐もあるってもんやわ」
「さっすがお医者さま!ありがとうごぜえますだ!」


伝票を持ってきたウェイターは会計用のプレートをワタクシに差し出す。しかしそこに彼女が金を置くと、一瞬、戸惑ったようだった。


・・・続く