店を出て車に向かう途中、彼女に彼氏から連絡が入る。


「あ、もうすぐ京都に着くらしいわ」


実は今日から一週間の休暇を取っているらしく、それを利用して彼氏と二人で中国の世界遺産黄龍九寨溝を見てくるらしい。


「ええの〜。で、彼氏は今日はお前んトコに泊まって、明日一緒に出かけるってワケか。んで、とゆーことは、オマエをドコで降ろしたらええんかの?」
「向こうもどうせ車やし、どこでもええって言うてるけど」
「んー、ほなヤマシナ駅でえーか?あそこやったらスタバもあるし、とりあえず待つにはええやろ」


駅に向かう途中、彼女は折り紙の話をし出した。


「けんくん、アンパンマンとか折れる?」
「折れるかいそんなもん。てゆーか何でまたそんなハナシやねん」
「静岡の小児科では慣習になっててんけどな、名札のトコにアンパンマンの折り紙とか入れとくと子供が喜ぶねん」
「ほー、なるほどね。んで?」
「でな、これがご褒美としても使えるねん」
「おー、確かにね。注射とか点滴とかが終わったときに『はい、よくガンバったねー』ってカンジでその折り紙をあげるってわけね」
「そうそうそう!それが他の看護婦さんとかにも評判が良くて、こっちの病院でも広がってんねん。他にももっと折れた方がいいよねってカンジになってきて、こないだ静岡の看護婦さんに説明書をFAXで送ってもらったわ〜」
「へーえ、ええことちゃうん」
「やろ?」


結局自慢話かよ、と内心苦笑はしたのだが、同時にこうも思った。すっかり小児科医になったものだと。そのことを伝えておけばよかったと、後から思った。


駅に着いて、彼女を降ろす。彼氏はまだ着いていないようだった。窓越しに軽く言葉を交わす。


「ほなま、楽しんで来いよ。彼氏によろしく」
「うん」
「土産話は楽しみにしとくで」
「それは沢山あると思うなー」
「ケンカ話も期待してますよ」
「あー、ソレは多分すると思うわー」
「ははっ。そりゃ楽しみやな。ほなまたの」
「ん」


が、ただでさえ狭い駅前のロータリーは他にも沢山の車が止まっていて、通り抜ける際に縁石に後輪が軽く乗り上げてしまった。すぐさま携帯にメールが入る。


「不合格!」


うるせえ、と呟きながら、一人で笑ってしまった。


…続く