現実.

ジダン復活のW杯」そういうストーリーを期待していたのは,ワタクシだけではなかったと思う.ジダンがミゴトに活躍してフランス優勝という完璧なハッピーエンドにせよ,全力を出して敗れる,落日の英雄となるにせよ,最後の舞台を,最高の舞台で,飾る.そのような物語を,ワタクシは期待してしまっていた.しかし・・・


34歳の英雄が,マテラッツィの胸に頭突きを見舞っているシーンを見て,ワタクシは呆気に取られてしまった.レッドカード.一発退場.


フランスは有利に試合を進めていた.後半開始早々から立て続けにチャンスを作った.これが平均年齢30歳のチームかと目を見張るほどの運動量.しかし,そこで点を決め切れなかったのが致命的だった.後半も30分を過ぎた頃には全員の足が,完全に止まってしまう.そしてヴィエラの足が攣ってしまった.フランスの攻守を支えたMVP候補が,舞台から姿を消した.


延長の後半に入るとようやくトレセゲが登場したが,その直後に今度はアンリの足が攣ってしまう.体力の限界をとっくに越えていたジダンから,手足までもがもぎ取られていくようだった.そして暴力による報復.退場.ワールドカップの決勝という,名実ともに最高の場所で現役生活を終えるという演出は,台無しとなった.

これが人生だ.

トルシエによって日本代表がアジアでは無敵の強さを誇るようになった頃,W杯王者のフランスと戦ったことがあった.豪雨でピッチのコンディションが悪い中,日本は0−4で完敗した.試合の終盤,孤軍奮闘していたナカタにジダンが歩み寄って一言話し掛けた.それが「これが人生だ」という言葉だったらしい.


そのことをジダンは憶えていないだろうが,今は自分でその言葉を噛み締めているのかも知れない.ワタクシも,テレビの前で思い知った.自分が見ていたのはテレビのメロドラマでもなければハリウッドの映画でもなく,サッカーなのだということを.現実の中には,物語など存在していないということを.


それが,人生だ.