また言われた

一昨日の飲み会で、またかよ、と思った。
「内藤さんは、今の研究分野に満足できないんじゃないかと思ってました」
と言われたのである。
分子遺伝で一級の成果を挙げたあなたが、遺伝資源なんてメインストリームから離れてしまうような所にいっちゃったりして大丈夫なのか、という話だ。

けれど僕は帰国を考え始めた頃から、イネやシロイヌナズナのようなモデル植物で研究を続けることに対しては大いに危惧を抱いていた。

僕の成果は確かにNatureに載ってしまったけど、でも、本当に素晴らしい発見と言うのは、「その謎が明らかになることによって、さらに謎が深まる」ようなもののはずだ。僕の発見は、むしろデッドエンド。多少の応用の余地はあるけれど、でもそれ以上研究が発展することを想像するのは非常に困難だった。実際、当時のボスはその後調子に乗ってバカデカい予算を落としてきたけれど、今やあのラボは完全に迷走している。あの研究を続けなくて本当に良かったと、つくづく思う。

で、別の分野に移るとして、じゃあ何をするのか。ある日本のラボからは、イネの大規模プロジェクトを任せたい、ということで誘いが来ていた。でもその大規模なプロジェクトとほとんど同じ内容の実験を、トウモロコシ使って行った論文が、まだ帰国まで随分時間が残ってる段階でリリースされてしまった。今さらイネで同じことやったって、面白くも何ともない。金も労力も大量につぎ込んで、アウトプットは中堅の論文1本なんて、そんなムダな話はない。

かといって、まだ誰も考えていないような、意表を突くようなアイデアや興味が、当時の僕にあったわけでもない。何か面白そうな求人はないものか。。。と思いながらネットを検索していて、見つけたのが今の職場の公募だった。

そこ書かれていた「アズキの研究」という言葉に、僕を惹きつけられた。

アズキの研究・・・って、学会でも聞いたことがないぞ?日本人にとっては馴染みの深い作物なのに。

そう思って、PubMedを使ってアズキに関する論文を探してみた。「Vigna angularis」という、アズキの学名でヒットしたのは、たった91件。えっ、と思ってイネの学名である「Oryza sativa」を検索キーワードにすると、結果は18,000件をあっさり超えた。つまり、アズキの研究なんて、ほとんど誰もやっていない。だったら、まだ誰も気づいていないような面白いことがそこらへんに転がってるんじゃないか。イネやナズナの世界、つまり沢山の優秀な研究者たちが荒らし回ったあとの世界なんかより、遥かに簡単にそういうものが見つかるんじゃないか。そう思ったんである。

賭けは、当たり過ぎるほど当たった、と思う。今までほとんど誰にも見向きもされていなかった、驚くべき特徴を持った植物の数々。僕は今の職場で、それを目の当たりにすることになったのだった。